夫婦が別居するときに住民票は移動すべきか
結婚している夫婦が別居するときでも、単身赴任などで生活の拠点はそのままの場合や、別居が一時的なものである場合には、住民票は移さないことが多いと思います。
しかし、離婚を前提とした別居の場合には、別居状態がいつまで続くかもわかりませんし、生活の拠点自体を移すことも多いですから、住民票を異動すべきかどうかで悩むこともあると思います。
ここでは、夫婦が別居するときに、住民票を移すメリットやデメリットについて説明します。
住民票を移さなかったらどんなときに困る?
日本では、居住地を変更した場合、住民票を移さなければならないことが法律で定められています。
もし住民票の異動を怠ったら、最大5万円の過料(罰金)の制裁を受ける可能性もあります。
と言っても、実際に住民票上の住所に住んでいない人もたくさんいますし、住民票を異動せず罰金を受けたなどという話もあまり聞きません。
「離婚するまでは住民票を移さなくても良いのでは?」と考える方も少なくないと思います。
別居の際に住民票を異動させなかった場合に起こる不都合としては、以下のようなことが考えられます。
子どもが別居先の学校にスムーズに入れない
子どもを連れて家を出る場合、新しい住所地の学校に子どもを通わせなければならないことがあります。
このとき、もし住民票を移していなければ、スムーズに転校できない可能性があります。
公立の小中学校では、住民票が移っていなければ、原則として転校が認められません。
事情を話せば一時的に転校ができるケースもありますが、あくまで例外的な扱いになりますから、いつまでも住民票を移さないままにしておくのは困難でしょう。
自分宛の郵便物を受け取れないことがある
住民票を移さなくても、郵便局に転送届を出せば、自分宛の郵便物を別居先に転送してもらうことができます。
しかし、役所や金融機関等から送られてくる郵便物の中には、住民票の住所に「転送不要」扱いで届くものがあります。
「転送不要」の郵便物には住所確認の意味がありますから、転送届を出していても転送されません。
差出人に返送されてしまうことになりますから、差出人にその住所に住んでいないことがわかってしまいます。
「転送不要」の郵便物には重要なものが多いですから、受け取れないと困ることになります。
また、住民票の住所に住んでいないことで、不利益を受ける可能性もあります。
役所からの郵便物を受け取るには、当然ですが住民票を移さなければなりません。
また、金融機関で住所変更手続きをする際にも、住民票の写し等が必要ですから、やはり住民票を異動させなければならないことになります。
住民票を移した方がメリットになることもある
別居中の夫婦の場合、実質的に離婚しているのと変わらない状態であるにもかかわらず、離婚協議や離婚調停に時間がかかってしまい、なかなか離婚できないというケースもあります。
特に女性の側は、離婚が成立すれば優遇が受けられる場面が多いのに、離婚が成立しないばかりに不利益を被ってしまうことがあります。
このような場合でも、別居に際して住民票を異動していれば、既に離婚が成立しているのと同様の扱いをしてもらえることがあります。
公営住宅の申し込みができる可能性が出てくる
離婚して母子家庭になったなら、家賃の安い公営住宅(県営住宅・市営住宅など)に入りたいと考えている方も多いと思います。
自治体によって扱いは違いますが、一般に、夫婦が結婚している状態で、別居のための住居を確保する目的で公営住宅を申し込むことはできません。
しかし、婚姻中であっても、別居して既に一定期間が経過していれば、公営住宅の申し込みができるところもあります。
この場合には、別居期間を証明する必要がありますから、住民票を異動させておかなければなりません。
児童手当の受給者変更ができる
中学生以下の子どもがいる家庭に支給される公的な手当が児童手当です。
児童手当は、夫婦のうち所得の多い方が受給者となりますから、夫が受給者であるケースが多くなっています。
そのため、妻が子どもを連れて家を出た場合にも、児童手当はずっと夫の口座に振込されているということがよくあります。
児童手当は貴重な収入源ですから、子どもと同居する女性はなんとしても確保したいところでしょう。
夫が受け取った児童手当を妻にすんなり渡してくれればいいですが、離婚を前提としている夫婦の間では、なかなかそうもいかないはずです。
児童手当は、父母が離婚を前提に別居している場合には、子どもと同居している方に優先的に支給されることになっています。
住民票を異動すれば、児童手当の受給者を妻に変更し、妻の口座に直接振り込んでもらうことも可能になります。
なお、児童手当の受給者変更をする際には、住民票を異動しているだけでなく、離婚調停中や離婚協議中である旨の証明書の提出が要求されることがあります。
離婚調停中である旨の証明書(事件係属証明書)は家庭裁判所で発行してもらえますが、離婚協議中である旨の証明書は弁護士や行政書士に書いてもらう必要があります。
保育料が下がる可能性もある
子どもを認可保育所に預ける際の保育料は、夫婦の所得を合算した額を基準に算定されます。
そのため、妻が子どもを連れて別居した場合、自分の収入に比して保育料が高額になり、負担が大きくなってしまうということが起こりがちです。
多くの自治体では、たとえ離婚を前提とした別居であっても、夫婦双方の所得の合計により保育料を算定する扱いになっています。
しかし、別居が一定期間以上に及んでいる、離婚調停中である、などの条件をみたせば、同居している親の収入のみを基準に保育料の算定をしてもらえる自治体もあります。
こうした扱いをしてもらうには、少なくとも住民票を移していることは必須になります。
住民票を移すと困るケースはある?
別居の際、住民票を移すことがデメリットになることもあります。
以下のような場合には、住民票の異動には慎重になった方が良いでしょう。
子どもを転校させたくない場合
子どもを連れて別居する場合、別居先がそれほど離れていなければ、元の学校にそのまま通わせたいと考える方も多いのではないでしょうか?
別居先から学校まで子どもが歩いて行けない場合にも、「転校させるのはかわいそうだから、車で送り迎えしてでも元の学校に通わせたい」というお母さんやお父さんは珍しくないと思います。
公立の小中学校では校区が決まっていますから、校区外へ住民票を異動すれば、転校せざるを得なくなってしまいます。
しかし、住民票をそのままにしておけば、子どもが転校せずにすむことがあります。
なお、別居後も子どもをそのまま元の学校へ通わせても良いかどうかについては、自己判断するのではなく、事前に学校側と相談した方が良いでしょう。
国民健康保険に加入している場合
別居するとなると、健康保険の問題もあります。
妻が夫の社会保険の扶養に入っている場合には、たとえ別居することになっても、妻は夫の扶養に入ったままで、保険料も夫が負担することになります。
これは、住民票を移しても移さなくても同じです。
一方、夫婦とも国民健康保険に加入している場合には、住民票を移すかどうかで状況が変わります。
国民健康保険には扶養という概念がなく、世帯単位で加入することになります。
妻が別居して住民票を移し世帯が分かれてしまうと、妻は別居先で新たに国民健康保険に加入しなければなりません。
つまり、住民票を異動しなければ保険料はそれまで通り世帯主である夫が妻の分をまとめて支払うことになりますが、住民票を異動すれば妻の方でも保険料を支払わなければならなくなります。
国民健康保険の保険料は世帯の人数に応じて変わりますから、妻が子どもと同居する場合には、妻が子どもの分も払わなければなりません。
なお、国民健康保険の保険料は所得によって変わります。
所得が低い場合には減免も受けられますから、もし住民票を異動させるなら、減免制度を活用すると良いでしょう。
住宅ローンの名義人が出て行く場合
別居のため、住宅ローンを組んで購入した家をそのローン名義人が出て行く場合には、注意が必要になります。
住宅ローン返済中は、原則として名義人は住所変更ができません。
住宅ローンは自分が住むことを条件に金融機関から低金利でお金を借りているものになりますから、住所変更をすれば、契約違反ということになります。
住民票を移していることが金融機関にバレたなら、他のローンへの借り換えを要求されたり、一括返済を要求されたりする可能性があります。
また、住宅ローン控除を受けていた場合には、住民票を移すことにより、それ以降住宅ローン控除が受けられなくなります。
住宅ローン控除は金額が大きいですから、適用されないとなると大きなデメリットになってしまいます。
住民票を移すと相手に居場所を知られてしまう?
住民票を異動しても夫婦間ではバレる
DVなどの理由で別居を考える場合には、相手に居場所を知られたくないことが多いはずです。
夫婦は同じ戸籍に入っていますが、日本では同じ戸籍に入っている以上、住民票がどこにあるかは簡単に調べられます。
たとえば、妻が夫と同居していた住所から住民票を異動した場合、夫は役所で戸籍の附票や住民票(除票)の写しを取ることで、妻の転出先を確認することができます。
現行制度上、妻はどこに引っ越しても夫に居場所がバレてしまうことになりますから、DVなどの事情があるケースでは困ったことになってしまいます。
そのため、DV等の被害者を保護するために、住民票や戸籍の閲覧・交付の制限をする措置が設けられています。
住民票等の閲覧・交付制限を行うDV等支援措置
DV等の被害者が申し立てることにより、加害者からの住民票や戸籍の附票の写しの交付等を制限し、被害者の住所が加害者に知られることを防ぐ措置は、「DV等支援措置」と呼ばれます。
DV等支援措置を受けるためには、まず、お住まいの地域の警察署や配偶者暴力支援センターなどの相談機関に相談する必要があります。
その結果、DV等支援措置が必要と判断された場合には、相談機関の意見を記載した「住民基本台帳事務における支援措置申出書」を住民票や戸籍のある市区町村に提出して申し出を行うことができます(※詳しい手続き方法は、お住まいの市区町村に確認してください)。
住民票を移した方が離婚しやすくなる?
別居が長期間に及べば離婚できる
たとえば、妻が離婚を希望しているのに夫が応じてくれない場合、妻が我慢できずに家を出ることもあると思います。
別居時点でこれと言った離婚原因がなくても、別居が相当の長期間に及べばそれ自体が離婚原因となり、妻は裁判してでも離婚することが可能になります。
なお、どのくらいの期間別居すれば離婚できるのかは一概には言えず、様々な要素を考慮してケースバイケースで判断されます。
別居期間を判断するのに住民票の異動が必要?
上記の別居期間を判断する際には、住民票が基準になるわけではありません。
別居にあたって必ず住民票を移さなければならないということはなく、現実に夫婦としての協力関係がないまま長期間別居していれば、離婚はできることになります。
ただし、この場合にも様々な要素を考慮して判断されることになりますから、住民票を移していることも判断要素の1つにはなり得ます。
住民票をそのままにしていれば、「戻ってくる気があったのでは?」と言われる可能性もありますから、離婚の意思が固いのなら、別居する時点で住民票を移しておいた方が良いと言えます。
別居の際に住民票を移すとなると、子どもの転校が必要になったり、免許証や金融機関の住所変更も必要になったりしますから、手続きが煩雑になります。
離婚するかどうかまだ迷っているけれど、とりあえず冷却期間をおきたいような場合には、焦って住民票を移さない方がいいかもしれません。
既に離婚協議中や離婚調停中である場合には、住民票を移しておいた方がメリットになることが多くなります。
離婚が成立したらやらなければならない手続きが一気に増えますから、離婚後の手続きの負担を軽くするためにも、住民票は離婚前から異動させておいた方が良いでしょう。
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