別居中に相手が自宅に侵入したら不法侵入?
3ヶ月前、夫が「別居したい」と出て行きました。原因は、性格の不一致だそうです。
新しい住所を教えてくれなかったので、週末に子供に会いに帰宅した際、携帯メールを調べました。すると、浮気していることが判明しました。
その後、長期出張のため荷物を取りに来たとき、マンションの鍵を忘れていきました。それを使ってマンションに入ったら、不法侵入になるでしょうか。
また、そこで浮気の物的証拠を得られたとしたら、証拠として有効でしょうか。
このようなケースで、「住居侵入罪」は成立し、またそのような状況で収集した「浮気の証拠は」有効なのでしょうか。
今回のケースを見る限り、
ご相談者様が別居中の夫の家にあがるのは不法侵入となってしまいます。
そのため、浮気の物的証拠についてはそもそも入手すること自体が違法となるのですが、仮にそれを得られたとしても、裁判では有利に働かない可能性があります。
それでは、それぞれについて詳しく解説をしていきましょう。
まずは不法侵入について。
これは刑法の住居侵入等130条前段に記載されている住居侵入罪にあたるのですが、根本的な部分として、なぜ住居侵入が不法となるのかを考えてみましょう。
そもそも刑法の罪には、それぞれに保護されるべき利益があります。こ
れを保護法益と言うのですが、それを理解すると、なぜその行為が刑法上の罪になるのか?といったことが見えてきます。
では、住居侵入罪における保護法益とは何かについて考えてみます。
いくつかの説があるのですが、代表的なものとして「誰を自宅に立ち入らせるかは、住んでいる人が決定できる」という権利を保護法益とするものと、住居の平穏自体が保護法益である、とするものがあります。
前者について、誰もが勝手に住居に立ち入ることができるというのは、確かに住人の意思が無視されています。
後者についても、無断で人が入ってきては不安が尽きません。
そのため両方の説はいずれも、至極もっともである、と言えるでしょう。
そこで、ここからはこの2つの説を使い、今回のご相談内容について考えてみます。
まず、夫が別居を目的に家を出て3カ月が経っており、さらに新住居についてもその場所を教えていないわけですから、法律上夫婦であったとしても、新住居にご相談者様を入れたくない、と考えるのはごく自然なことです。
さらに、ご相談者様を入れたくないという夫の意思は明確になっている、といえます。
そのため、住居権者の意思に反して住居に立ち入ることは、住居侵入罪にあたってしまうのです。
また、今回のケースではご相談者様は鍵をお持ちのようですが、それはあくまで別居中の夫が忘れていったものにすぎません。
「この鍵を使って勝手に入ってもいい」と言われているのとは事情が異なります。
そう考えると、普通に玄関から入る、といった行動であっても他人の住居の平穏を害す行為とみなされるのです。
こうした意味でも、住居侵入罪になってしまう可能性は高いでしょう。
いくら浮気の証拠集めだからと言っても、正当化するのは難しいと言えます。
次に、「浮気の物的証拠を持ち出せたら~」、といった部分についても考えてみましょう。
これは当然ではありますが窃盗になりますので、やはり犯罪です。
ただし、窃盗はあくまで有形物の持ち出しを想定していますから、パソコン内のデータを持ち出した場合には窃盗にはなりません。
ですが、こうして持ち出した証拠を裁判で提出した時、裁判官にはどのような印象にうつるでしょうか?
裁判官は、その証拠がどのように入手されるかを考えます。
そしてそれが、不法侵入によって持ち出されたものだという結論に至ったなら、明らかに裁判では不利に働くでしょう。
刑事事件とは違い、民事訴訟においては違法に収集された証拠を裁判で使ってはならない、ということはありません。
とは言え、こうした事態を考えれば、不法侵入というリスクを冒してまで入手すべきものではないと考えられます。
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